背景
現在,光ファイバセンシングという光ファイバの温度・歪み依存性を利用した技術が広く研究されています.光ファイバセンシングは,本来の光ファイバの用途である情報伝送に加え,センサとしての機能も発揮するため,様々な環境センシングへの応用が期待されています.一方で,光ファイバセンシングは測定できる物理量は温度や歪み,振動などに限定されていることが課題としてあげられています.実際,環境センシングにおいては様々なセンサが利用されています.例えば,河川の氾濫や工事現場の遠隔監視においてはビデオカメラなどを用いられています.ビデオカメラなどといった各種センサに光ファイバセンシング技術を統合することで光ファイバセンシングにおける課題解決と遠隔モニタリングを含む環境センシングの可能性を広げることができると考えられています.
目的
そこで我々は,センサから得た0と1で構成されるデジタル信号を位相変調し,光ファイバケーブルに加え,光ファイバ振動センサから受信信号を復調することでセンサのデータを検出するという手法の研究を行っています.図1は,その手法の概念図です.本研究は,光ファイバケーブルを傷つけたり,複雑な施工を行ったりすることなく,あらゆるセンサデータを既存の光ファイバケーブルを用いて遠方へ伝送できる点が利点です.最終的には,既存の光ファイバ通信網を活用して様々な環境の遠隔監視のためのセンサの利用を実現することを目標としています.
最新の成果
現在は,光ファイバの温度や歪み依存性における伝送路の屈折率変動を考慮した受信モデル「周波数ダイバーシティ受信器」を提案し,受信特性の改善に成功しています.また直接スペクトル拡散方式という多重伝送方式を用いた複数のチャンネルの伝送に成功し,その基本特性を検証しました.現在は,伝送速度の高速化(受信特性の改善)のために複数の搬送波周波数を用いたパラレル伝送や,畳み込み符号の適用によるエラー低減にも取り組んでいます.

関連論文など
- T. Manabe, R. Hashimoto, H. Fujita, A. Nakamura, and Y. Koshikiya, “Low-speed Data Transimission using a Modulated Vibration Signal on an Optical Cable’s Outer Sheath,” in Proc. 27th International Conference on an Optical Fiber Sensors, W4.3, 2022.
- N. Nagamatsu, T. Manabe, A. Nakamura, and Y. Koshikiya, “Frequency diversity receiver applied to modulated vibration transmission system using Mach –Zehnder interferometer,” in Proc. 28th International Conference on Optical Fiber Sensors, W4.33, 2023.
- N. Nagamatsu, T. Manabe, A. Nakamura, and Y. Koshikiya, “Reception Characteristics of Multi-channel Transmission Systems using Modulated Vibration and Mach–Zehnder Interferometer,” in Proc. 2024 International Conference on Emerging Technologies for Communications, proc. 85, P1-19, 2024.
- Y. Ito, N. Nagamatsu, T. Manabe, A. Nakamura, and Y. Koshikiya, “Application of Forward Error Correction to the Vibration Transmission System Using the Mach-Zehnder Interferometer,” in Proc. 2024 International Conference on Emerging Technologies for Communications, proc. 85, P1-32, 2024.
- 長松希海, 真鍋哲也, 中村篤志, 古敷谷優介, “変調振動と光ファイバ振動センサを用いた信号伝送におけるDPSK方式の適用,”電子情報通信学会ソサイエティ大会2023講演予稿集, B-13-16, 2023年.
- 長松希海, 伊藤勇人, 真鍋哲也, 中村篤志, 戸毛邦弘, “マッハツェンダ干渉計を用いた振動伝送システムの雑音耐性に関する検証,” 電子情報通信学会技術研究報告Vol. 124, No.202, OFT2024-54, pp.100-103, 2024年.
- 伊藤勇人, 長松希海, 真鍋哲也, 中村篤志, 戸毛邦弘, “光ファイバケーブル外被への加振による情報伝送方式への畳み込み符号の適用,” 電子情報通信学会技術研究報告Vol. 124, No.202, OFT2024-55, pp.104-107, 2024年.